名古屋地方裁判所 平成10年(レ)69号 判決 1999年12月20日
控訴人
株式会社玉徳商店
ほか一名
被控訴人
株式会社共栄
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
二 控訴人らは、連帯して被控訴人に対し、金二三万八七七二円及びこれに対する平成七年二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は第一、二審を通じこれを一〇分し、その三を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
五 この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
第二事案の概要
本件は、控訴人杉浦由春が運転し、控訴人株式会社玉徳商店が所有する普通貨物自動車と、被控訴人が所有する大型貨物自動車とが衝突した事故(以下「本件事故」という。)につき、被控訴人が、控訴人杉浦由春に対し民法七〇九条に基づき、控訴人株式会社玉徳商店に対し同法七一五条に基づき、それぞれ損害賠償を請求した事案である。
一 争いのない事実
1 本件事故の発生
(一) 日時 平成七年二月一五日午前六時二〇分ころ
(二) 場所 名古屋市緑区大高町字北炭焼二四番地先(名古屋都市高速道路大高インター出口道路(以下「本件合流道路」という。)と国道二三号線の合流地点。)
(三) 第一車両 普通貨物自動車(三河一一ひ七八六九)
運転者 控訴人杉浦由春(以下「控訴人杉浦」という。)
所有者 控訴人株式会社玉徳商店(以下「控訴人会社」という。)
(四) 第二車両 大型貨物自動車(福岡一一く二八六)
運転者 訴外朝妻龍法(以下「訴外朝妻」という。)
所有者 被控訴人
(五) 第三車両 トレーラー(名古屋一一く八一五八)付きトラクタ(牽引車)(名古屋一二き五二二〇)
運転者 訴外塚本節雄(以下「訴外塚本」という。)
使用者 訴外ミック運輸株式会社(トラクタ部分)
(六) 第四車両 大型貨物自動車(岡山一一く九一〇三)
運転者 訴外青山英彦
使用者 訴外鶴山運送株式会社
(七) 事故態様 本件合流道路を国道二三号線と合流する地点に向けて進行していた第一車両と、本件合流道路にいた第二車両、第四車両と、国道二三号線を進行していた第三車両とが前記合流地点付近において衝突した。
2 控訴人杉浦は控訴人会社の従業員であり、本件事故当時、控訴人会社の業務に従事していた。
二 争点
1 本件事故態様と双方運転者の過失の程度
(控訴人らの主張)
第一車両が、本件合流道路を国道二三号線と合流する地点に向けて時速約八〇キロメートルで進行していたところ、本件合流道路左側導流帯(以下「本件ゼブラゾーン」という。)に駐車していた第二車両が第一車両前方に発進してきたため、控訴人杉浦において急制動の措置を採るも間に合わず、スリップして第二車両に接触した。
右事故態様に照らすと、第一車両を運転していた控訴人杉浦にも制限速度遵守義務違反という過失はあるものの、第二車両を運転していた訴外朝妻は、本来駐車場所ではない本件ゼブラゾーンから本件合流道路に発進するのであるから、本件合流道路を走行する車両の有無及び動向を十分確認して進入すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と第二車両を発進させた過失がある。
したがって、被控訴人に生じた損害の算定にあたっては、第二車両を運転していた訴外朝妻の過失を斟酌すべきであり、その割合は八割が相当である。
(被控訴人の主張)
訴外朝妻は、本件ゼブラゾーンから第二車両を発進させようとして、右側の方向指示灯を点滅させた上、本件合流道路後方を確認したところ、後方約一〇〇メートル地点に本件合流道路を進行してくる第一車両を確認したが、第一車両の前に進入する余裕が十分あったため、そのまま第二車両を発進させ、本件合流道路に進入して走行した。ところが、第一車両は制限速度を超える時速約九〇キロメートルで進行していたため、国道二三号線を走行していた第三車両との合流方法を誤り、第三車両に接触した。第一車両は、その衝突の反動で、本件合流道路を走行していた第二車両の右側面前部に衝突した。
右事故態様に照らすと、第一車両を運転していた控訴人杉浦は、制限速度を遵守し、自車進路前方を注視して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、制限速度を大幅に超過した時速約九〇キロメートルで前方不注視のまま第一車両を進行させた上、国道二三号線に合流する際に不適切な運転操作をした過失がある。
2 損害額
(被控訴人の主張)
(一) 車両損害(修理代金) 五五万八〇七五円
(二) 休車損害 一五万四五〇〇円
(三) 弁護士費用 七万円
第三争点に対する判断
一 争点1について
前記争いのない事実並びに証拠(甲一、四、五、乙一の1ないし31、二の1ないし25、四の1ないし44、証人朝妻龍法(当審)、控訴人杉浦由春本人(原審))及び弁論の全趣旨によると次の事実が認められる。
1 本件合流道路は、名古屋都市高速道路大高インター出口から分岐し、本件事故現場付近で片側三車線の国道二三号線(豊川方面道路)の第一車線(一番路肩寄りの車線)と接続、合流する構造となっていた。そしてその制限速度は時速六〇キロメートル、幅員約三・五ないし三・七メートルの急な下り坂の道路で、国道二三号線と合流する付近の路肩部分に本件ゼブラゾーンが設置されていた。国道二三号線第一車線の幅員は約三・五メートル、本件ゼブラゾーンの幅員は約三・五ないし四メートルであった。また本件ゼブラゾーンを含む本件合流道路は駐車禁止となっていた。
2 訴外朝妻は、本件事故前、本件ゼブラゾーン内に第二車両を駐車して、仮眠をとっていた。
控訴人杉浦は、本件事故当時、第一車両を運転し、本件合流道路を前記制限速度を超える時速約八〇キロメートルで国道二三号線と合流する地点に向けて進行していた。また、訴外塚本は、トレーラー部分に重機を積んだ第三車両を運転し、国道二三号線第一車線を時速約五〇キロメートルで本件合流道路と合流する地点に向けて進行していた。
3 訴外朝妻は、仮眠から覚めて前記駐車地点から第二車両を発進させようと右側の方向指示灯を点滅させバックミラーで後方を確認する等したが、その際、本件合流道路を進行してくる第一車両を発見した。訴外朝妻は、自車が先に本件合流道路に進入できるものと判断して、そのまま第二車両を発進させ、本件合流道路に進入しようとした。
4 他方、控訴人杉浦は、本件合流道路を進行中、本件合流道路と国道二三号線の合流地点に向けて国道二三号線第一車線を進行してくる第三車両を自車右前方に発見したが、同車の速度が遅かったため、同車を追い越し、同車の前方の位置で国道二三号線第一車線に進入しようと思った。その後控訴人杉浦は、前記速度のまま本件合流道路を進行したが、第二車両が本件ゼブラゾーンから本件合流道路に進入する位置に移動したころ初めて第二車両と第三車両とに挟まれる危険を感じた。そこで控訴人杉浦は、直ちに警笛を鳴らし第二車両に対し注意を促した上、急制動の措置を講じたが、第一車両前部左側を本件ゼブラゾーンから本件合流道路に一部進入していた第二車両右側面前部に、第一車両右側部中央付近等を国道二三号線第一車線走行中の第三車両左側部後方にそれぞれ衝突させ、さらに、そのまま第二車両と第三車両との間を進行し、第一車両左側部等を本件ゼブラゾーン内に駐車していた第四車両左側面に衝突させた後、停止した。
以上のとおり認められる。
被控訴人は、本件事故直前の状況につき、訴外朝妻が第二車両を本件ゼブラゾーンから本件合流道路に進入させようとした際、第一車両は第二車両の後方約一〇〇メートル地点を進行していたこと、そこでそのまま第二車両は第一車両より先に安全に本件合流道路に進入し、第一車両は一旦は第二車両の後方を走行していたとの事実を主張する。しかし証拠(乙一の8ないし11、二の8ないし15、証人朝妻龍法(当審))によると、訴外朝妻自身も、本件事故当時第一車両と第二車両とは並行した状態にはなく、第一車両は第二車両に相当の角度をもって衝突したことを自認していること、また第一車両、第二車両に残る衝突痕もこれに沿った形状となっていることが認められる。そうすると、被控訴人主張のとおり、第二車両が本件事故当時既に本件合流道路に進入、走行していたのであるならば、当然に第一車両は、一旦は第二車両の後方を走行した後、追い越す形態で第二車両と並ぶはずであるから、その衝突の形態が前記のようになることは疑問である。そして、前記の両車両の衝突時の位置関係からすると、むしろ、前記認定のとおり、第二車両が本件ゼブラゾーンから本件合流道路に進入しようとした際に第一車両が右後方から進行してきて第二車両と衝突したと認めるのが相当である。したがって、被控訴人の前記主張はこれを認めることができない。なお証人朝妻龍法(当審)は、本件事故の態様につき、第一車両、第二車両、第三車両が衝突した後、第一車両が一旦第二車両と離れ、その後第一車両が再度前進して第四車両に衝突するに至った等前記認定と異なった態様も供述するが、格別の裏付けもなく採用できない。そして、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。
そして、右認定の事実によれば、本件事故は、訴外朝妻が駐車禁止場所である本件ゼブラゾーンに第二車両を駐車させた上、同所から本件合流道路に進入するに際し、第二車両後方に接近進行していた第一車両の存在を確認しながら、第二車両が第一車両の前方に安全に進入できるものと軽信し、漫然と第二車両を発進させた過失により生じたものといわねばならず、本件事故発生につき訴外朝妻の過失は大きいといわねばならない。もっとも前記によれば、控訴人杉浦においても、本件合流道路において第一車両を制限速度を時速約二〇キロメートルも超過する速度で走行させた上、第一車両前方右側の国道二三号線第一車線を走行中の第三車両等に気を取られ、第二車両が発進しようとしていた前方に対する注視不十分のまま進行した過失が認められるものといわねばならい。
そして、双方運転者の右各過失内容のほか、本件事故現場がいずれも交通量の多い名古屋都市高速道路と国道二三号線の合流地点であったこと等の事情も併せ考慮すると、本件事故発生について訴外朝妻の過失割合は七〇パーセントであると認め、被控訴人の後記損害額につき右割合の過失相殺をするのが相当である。
二 争点2について
1 証拠(甲二、三)及び弁論の全趣旨によると、本件事故による被控訴人車の修理費が五五万八〇七五円を要したこと、被控訴人車の休車損害が一五万四五〇〇円相当であったことが認められる。
右損害額の合計は七一万二五七五円となり、前記割合の過失相殺をすると、二一万三七七二円となる。
2 本件事案の内容、認容額等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある被控訴人の弁護士費用相当の損害額は二万五〇〇〇円と認めるのが相当である。
第四結論
以上によれば、被控訴人の本訴請求は、控訴人らに対し、連帯して損害金二三万八七七二円及びこれに対する本件事故日である平成七年二月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。原判決は右と一致する限度で相当であるが異なる部分は失当である。
よって原判決を右のとおり変更し、主文のとおり判決する。
(裁判官 北澤章功 榊原信次 山田裕文)